涙目/流涙症

◇流涙症とは?

涙が止まらない、、、そのような症状でお困りの方は流涙症の可能性があります。
涙の流出過程に問題が起こり、涙が内眼角からあふれてしまう疾患です。
結膜弛緩症など結膜の障害で起こることもよくありますが、多くは涙道(鼻涙管等)が狭窄ないし鼻涙管閉塞することにより起こります。

中高年がよくかかる病気の一つで、軽い場合は普段は涙は流れませんが、風にあたったりちょっとした刺激で涙が流れ出します。症状が重い場合は、常に涙が流れ、風にあたれば一層ひどくなり、瞼がかぶれたりします。
なみだ目(流涙症)はうっとうしいだけでなく、角膜表面が不整になるため、視力にも影響します。

◇流涙症の病態

主として涙腺で産生された涙は10%程度が蒸発で失われますが、大半は上下の眼瞼鼻側にある涙点より涙嚢へと吸引されます(図1)。この時にまばたきが重要で、特に閉瞼時の眼輪筋の一部で涙小管周囲にあるホルネル筋の収縮が重要となります。

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顔面神経麻痺などで眼輪筋の収縮が阻害されると、涙小管・涙嚢への作用が失われることにより涙の涙嚢への流れが失われ、流涙症を引き起こします。

涙をためる涙嚢は、扁平な基底細胞と、表層にマイクロビリーをもつ円柱細胞の2つの上皮細胞(重層構造)で腔が形成され、周囲を血流の豊富な血管叢(海綿状組織)が取り巻いています(図2)。

強拡大でみると(図3)、円柱上皮細胞の間にはゴブレット細胞が見られ、ゴブレット細胞は円柱上皮細胞とともに、ムチン、ペプチド、免疫グロブリンなどを分泌しており、これらの成分は涙液の動態を良好に保つ効果、感染防止、損傷の修復といった涙道の保護のための多様な効果をもっています。
こうして上皮による涙液保護作用で、涙道内でも涙液は角膜でみられるような3層構造を保っていると考えられています(図4)。

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涙嚢から鼻涙管に至る上皮を取り囲む結合織は、主としてタイプⅠとタイプⅢコラーゲン線維から成り、これらがらせん状に配列しています(図5)。このらせん構造はスクリューのように作用し、涙液の鼻腔への流れを起こすのに役立っています(図6)。

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涙道結合織の周囲は動脈と静脈が多数の吻合をもつ、血流の豊富な海綿状組織が取り巻いています(図7)。海綿状組織は、血流を変化させることで涙道の太さを変え、涙液の流れをコントロールする作用を持ちます(図8)。

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この海綿状組織にはVIPなど多くの神経ペプチドを放出する神経終末が存在し、神経支配を受けていることが分かります。情動でなみだが大量に出るのは、単に涙液の産生が増えるだけでなく、これら神経ペプチドによる海綿状組織の血流を介した流涙メカニズムが関係しているのです。

鼻涙管は導管としての役割以外に、涙液の吸収作用もあります。鼻涙管で継続的に吸収された涙液は海綿状組織に流れ、この流れが涙腺での涙液産生をフィードバック制御していると考えられています(図9)。このフィードバック機能により鼻涙管での涙液吸収が低下すると、涙腺に働き、涙液の産生はストップします。これが涙道機能不全からドライアイを生ずるメカニズムであろうと想定されています。ドライアイで涙点プラグが有効なことの理由は、鼻涙管での完全な涙液吸収の消失では、フィードバック機構は逆に涙液産生を促す方向に働くのだろうということです。

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涙道閉塞は結膜や鼻粘膜の炎症が波及することにより起こります。初めは海綿状組織のうっ血、涙嚢・鼻涙管上皮細胞やゴブレット細胞からのムチン、ぺプチドなどの過剰生産などから、機能的な通過障害を起こします。

やがて炎症が長引くと上皮組織に形態的な変化が生じます。上皮層からゴブレット細胞が消失、炎症細胞が上皮下に浸潤し、線維芽細胞が出現し結合織を産生し始めます(図10)。

次第に上皮は粘膜上皮から扁平上皮へ変化(扁平上皮化生)、細胞基底膜は肥厚し、上皮下組織は線維化し、海綿状組織も消滅してしまい、永久的な鼻涙管閉塞へ進行していきます(図11)。

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こうなると涙液の3層構造はなくなり、良質な涙液によるスムーズな流れは失われます。また、上皮下結合織のらせん構造が失われ、涙液を下方に押し出す力が失われます。海綿状組織の消失により涙液排出コントロールも失われ、鼻涙管は単なる導管へと成り下がってしまうのです。

流涙症の治療は、涙道における上記のような病理学的変化が起こる前、なるべく軽い症状のうちにやる必要があります。

◇流涙症の治療

古くよりブジーなどいろいろな治療が行われてきましたが、意外と治療は困難です。

軽症の場合は内視鏡下に涙管チューブを入れ、3か月ほど留置し、閉塞や狭窄部を拡張させる治療を行います。多くはこの治療で症状が改善します。チューブ挿入は、閉塞が高度でなければ15分ほどで終了し、大きな痛みは伴いません。
涙道の構造が保たれているこの時期になるべく治療をしたいものです。

重症の場合は、古くから涙嚢鼻腔吻合術といって、顔面を切開し、涙嚢を取り囲む骨にドリルなどで穴を開け、鼻腔に通ずる新たな道を作る方法が行われてきました。この方法は現在でも難治例では行う必要がある方法ですが、通常は全身麻酔下で行われるような、かなり大がかりな手術で、顔面に切開創ができる欠点もあります(図12)。

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当院では骨に穴を開けることのできる半導体レーザーを用いた涙嚢鼻腔吻合術を行い成果を上げています。この方法では顔面を切開する必要はありませんが、治療に時間を要します。

いずれにしろこの時期ではかなり覚悟を決めて治療を行う必要があることは確かで、軽症の内に治療を開始したいものです。

◇レーザーを用いた涙のう鼻腔吻合術

アプローチ方法は下記の2通りあります。

■下鼻道法

下鼻道法は本来の涙道を拡張する方法で、生理的な涙の通り道を利用するので望ましい方法ではありますが、閉塞が強い場合はしばしば困難で、時間がかかります。経涙小管的にレーザープローブを挿入し、鼻内視鏡下にレーザーを照射し下鼻道へ道を作っていきます。できた道にチューブをしばらく留置し再閉塞を防ぎます。この方法はレーザー照射部位が長くなると瘢痕形成により再閉塞する欠点があります。術直後にマイトマイシンを使用し成績を改善することが可能です。

■中鼻道法

本来の涙道からはずれ中鼻道に新たに道を作る方法で、観血的涙嚢鼻腔吻合術ではこの経路をとります。この方法では骨に穴を開ける必要があり、骨に穴を開けることのできるレーザーを使用する必要があります。この方法で作られたものは生理的な涙道の経路ではありませんが、経路が短く再閉塞する可能性が低く、また再閉塞時にも対応が容易であるなどの利点があり、閉塞が強い場合は下鼻道法より適していると考えられます。
Evolveのダイオードレーザーは骨に穴を開けることのできる数少ないレーザーですが、レーザーファイバーが高価で、使用時間に制限がかけられており、使い勝手が良いとは言えませんでした(図13)。これに対し、近年国産レーザーで対応が可能となってきました(図14)。

レーザーを使った方法では観血的な手術に比べると出来上がった吻合が小さく、再閉塞する可能性は高くなります。再閉塞に際しては多くはバルーンを用い吻合口を拡張させることで対応ができます。

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